公務員のイメージがある保健師ですが、世の中の関心が、病気の予防や心の健康に集まってきていることから、病院や学校、一般企業など活躍の場が広がっています。今回は、保健師になる方法や勤務先、仕事内容、働き方、給料について解説します。
保健師とは?
保健師の役割
保健師は、病院やクリニックで出会う看護師とちがい、役所や保健所、企業などで地域住民の健康を支え、安全な環境で生活できるように暮らしを守る仕事です。
保健師には3つの働き方があります。①保健所や保健センターなどで地域住民の健康保持増進をする「行政保健師」、②企業などで働く人々の健康管理をする「産業保健師」、③学校などで学生と教職員の健康管理をする「養護教諭」の主に3つの働き方があります。行政保健師や公立学校で働く養護教諭は、各地方自治体の採用試験に合格しているので、「公務員」として働いていることになります。
保健師の就業者数は5万人をこえており、年々増えています。市町村や保健所に勤める行政保健師が約60%を占め、さまざまな場所で活動しています。保健師は女性ばかりではなく、男性もいます。男性保健師が欠かせないシーンも多く、今後ますます増えていくことが期待されています。
看護師と保健師のちがい
看護師が主に病気になったあとの“治療”に携わるのに対して、保健師は主に病気になる前の“予防”に携わります。
【参考記事】看護師資格を活かせる!病院以外で働く方法
保健師になるための道のり
保健師になるために必要な資格
保健師として働くためには、看護師国家資格と保健師国家試験の両方に合格して保健師免許を取得する必要があります。
「保健師国家試験 受験資格」を得るためのステップは大きく2種類あります。
看護師と保健師の資格を同時に取得する方法
同時に取得するためには、看護師教育と保健師教育を統合したカリキュラムを用いる4年生の大学や専修学校に進学します。この方法では保健師教育課程を選択制にする場合と、全員が履修する場合があります。
4年制大学・専門学校のルートのメリット
- 育児や仕事と両立せずに、学業に専念できる間に看護師国家試験と保健師国家試験を両方受けることができる
- 一般教養科目を含む幅広い分野を学べる
看護師資格を取得したあとに、1年以上の保健師教育課程で学ぶ方法
看護師資格書取得したあとは多様な学び方があり、たとえば、1年間の短期大学専攻科や専修学校(保健師学校)があります。他には、大学院修士課程で2年間学ぶ方法もあります。
別途、保健師教育課程で学ぶルートのメリット
- 総合カリキュラムのある4年制大学・専門学校よりも比較的無理のないペースで保健師資格の取得を目指せる
- 看護師として働きながら保健師を目指せる
- 保健師として働くために必要な知識の習得や授業に集中して取り組める
看護師から保健師になるための手順
看護師が保健師に転職するには、3つのステップが必要です。
- 保健師試験の受験資格を得るために単位を履修する
- 保健師国家試験に合格する
- 転職活動で内定をもらう
それぞれについて説明をします。
保健師試験の受験資格を得るために単位を履修する
保健師国家試験の受験資格を得るために、1年制の保健師養成学校か看護系の大学に編入し、単位を修得することが必要です。養成学校では、講義のほかに実習も行います。
保健師国家試験に合格する
看護師国家試験と近い時期に実施される、保健師国家試験を受験します。厚生労働省「第109回保健師国家試験合格発表」では、合格率は93.7%でした。保健師国家試験に合格すると、保健師免許が交付されます。
転職活動で内定をもらう
働きたい機関・組織の求人に応募し、内定を獲得します。行政保健師に関しては、受験資格に年齢制限を設けている自治体があるため、応募する前に確認をしておいた方が良いでしょう。厚生労働省の発表では、令和4年度の有効求人倍率は、看護師が「2.53」に対し、保健師は「1.21」でした。保健師は離職率が低く、募集枠も少ないため、看護師と比べて転職は難しいといえるでしょう。
【参考記事】看護師の転職サイト活用方法 | 転職を考え始めたらまずやるべきこと、おすすめサイト
保健師の就職先・業務内容
患者さんへのケア
保健師の主な業務の一つは、患者さんへのケアです。看護師と同様に、病気やケガの予防、治療、リハビリテーションなどの面倒を見ることが求められます。ただし、保健師の場合は、一人の患者だけでなく、地域全体の住民の健康を促進する視点が重要です。
予防医療の推進
保健師は予防医療のスペシャリストとして、地域社会における健康増進に注力します。具体的には、健康診断の実施、予防接種の普及、生活習慣の改善をサポートするなど、疾病の発症を未然に防ぐための様々な取り組みが含まれます。
健康教育の実施
地域住民に対して、健康に関する知識や情報を提供することも保健師の役割です。健康教室や講座を企画・運営し、生活習慣の見直しや健康管理の大切さを広めることで、地域全体の健康水準向上に寄与します。
地域包括支援センターでの活動
一部の保健師は、地域包括支援センターで働くこともあります。ここでは、高齢者や障害を抱える方々のケアやサポートが求められます。地域社会との連携を図り、住民一人ひとりに合った支援を提供することが重要です。
事業所や学校での活動
保健師は、企業や学校で働く場合もあります。事業所では従業員の健康管理や労働環境の改善、学校では生徒たちの健康面のサポートが主な仕事となります。
保健師の種類
保健師には、働く場所や役割によってさまざまな種類があります。主に「行政保健師」「産業保健師」「学校保健師」「病院保健師(看護師との兼務)」の4つに分類され、それぞれ異なる業務内容を担っています。
行政保健師
行政保健師は、自治体の保健所や市区町村の保健センターに勤務し、地域住民の健康管理や疾病予防活動を行います。母子保健、成人保健、高齢者保健など幅広い分野で活躍し、地域の健康課題を解決するための施策を企画・実施します。
産業保健師
産業保健師は、企業の健康管理室や労働衛生機関で働き、従業員の健康管理やメンタルヘルスケアを担当します。職場の環境改善や労働災害予防、ストレスチェックの実施など、企業の生産性向上に寄与する役割もあります。
学校保健師
学校保健師は、大学や専門学校、高校などの教育機関に勤務し、学生や教職員の健康管理を担当します。健康診断の実施、健康相談、感染症対策の指導など、学生が安心して学習できる環境を整えます。
病院保健師(看護師との兼務)
病院保健師は、病院内で感染症対策や院内健康管理を担います。多くの場合、看護師としての業務と兼務する形で勤務し、患者さんの健康管理に加えて職員の健康管理や健康教育にも関わります。
保健師国家試験について詳しく解説
保健師として働くためには、国家試験に合格し、資格を取得する必要があります。ここでは、受験資格や試験の実施頻度、内容について詳しく解説します。
受験資格
保健師国家試験の受験資格を得るためには、看護師国家試験に合格した上で、保健師養成課程を修了する必要があります。多くの場合、看護系大学の保健師課程や専門学校の保健師養成コースを修了することで受験資格が得られます。
試験の実施頻度
保健師国家試験は、毎年1回実施されます。試験日は例年2月に設定されており、看護師国家試験と同時に行われることが一般的です。
試験内容
試験は筆記試験のみで、主に以下の分野から出題されます。
- 公衆衛生学
- 疫学・統計学
- 保健指導・地域保健
- 法規・制度
- 看護学(保健師業務に関する内容)
難易度と合格率
保健師国家試験の合格率は約90%前後と比較的高めですが、十分な学習が必要です。特に法律や制度に関する知識が問われるため、計画的に学習することが重要です。
合格後の手続き
試験に合格した後は、各都道府県の保健所で保健師免許の申請を行います。申請には、合格証書や必要書類の提出が求められます。
保健師になるための学費・支援制度
保健師になるためには、看護師養成課程に加えて保健師養成課程を修了する必要があります。ここでは、学費の目安や支援制度について解説します。
進学先別の費用比較(大学・専門学校)
- 看護系大学(4年制): 400万〜800万円
- 専門学校(3年制+保健師養成1年): 300万〜600万円
奨学金・助成金の活用方法
- 日本学生支援機構(JASSO)の奨学金
- 看護師養成を支援する自治体の奨学金制度
- 病院や企業の奨学金(卒業後の就職義務あり)
企業・自治体の支援制度
一部の自治体や企業では、保健師資格取得を支援する奨学金や助成金制度を設けています。
保健師の給与・年収事情
平均年収
保健師の平均年収は約450万〜600万円程度とされています。
勤務先別の年収比較
- 行政保健師: 500万〜700万円
- 産業保健師: 600万〜800万円
- 学校保健師: 450万〜600万円
キャリアアップによる収入の変化
管理職や専門資格を取得することで、収入アップが期待できます。
保健師の将来性とキャリアパス
今後の需要と役割の変化
高齢化社会の進展により、地域包括ケアシステムの中での保健師の役割がますます重要になっています。
キャリアアップの選択肢(専門資格・大学院進学)
大学院進学や専門資格(認定看護管理者など)の取得が可能です。
他の医療職種への転向の可能性
看護師や助産師、ケアマネージャーへの転向も可能です。
保健師の1日のスケジュール
行政保健師の1日
- 8:30 出勤・ミーティング
- 9:00 健康相談・訪問指導
- 12:00 昼休憩
- 13:00 健康教育セミナー
- 17:00 退勤
産業保健師の1日
- 9:00 健康診断の準備
- 10:00 メンタルヘルス相談
- 15:00 健康指導
学校保健師の1日
- 8:30 朝礼・学生対応
- 10:00 健康診断
- 14:00 感染症対策ミーティング
保健師に求められるスキルと適性
必要なスキル(コミュニケーション、指導力、分析力)
- 住民との円滑な関係構築
- 保健指導のスキル
保健師に向いている人の特徴
- 人と接することが好き
- 健康管理に関心がある
保健師になるための勉強方法
効率的な学習スケジュール
- 毎日1〜2時間の勉強時間を確保
国家試験対策のポイント
- 過去問の徹底分析
おすすめの参考書・問題集
- 『保健師国家試験対策テキスト』
- 『公衆衛生学マニュアル』
保健師に向いている人
社交的で、コミュニケーションを取るのが好きな人
保健師はさまざまな人とコミュニケーションを取る必要があるため、人と話すということが好きな方が向いています。
指導、アドバイスが好きな人
相手に合わせてうまく健康指導やアドバイスができる方は、保健師に向いています。正論を押し付けるだけでなく、相手に受け止めてもらえることが大切です。
自らが健康志向な人
保健師の仕事は、人々の健康のサポートを行うことです。指導を行う自らが、肥満や不規則な生活習慣では、相手から信頼を得ることはできませんので、自らも健康的な生活を目指しましょう。
おわりに
これらの仕事を通じて、地域社会全体の健康促進に貢献することが保健師の使命となっています。就職活動を進める際には、これらの業務に興味を持ち、自らのスキルをどう活かしていきたいかを考えると良いでしょう。
コメント