看護教員とは、看護職を養成する学校や大学で教鞭をとる職業です。全看護職の約12%に当たる19,954人います(2018年 厚生労働省「衛生行政報告例」)。看護師不足の現代において、未来の看護師を育てる役割を担う看護教員の需要はますます高まっています。本記事では、看護教員になるための道筋や具体的な仕事内容、やりがい、向いている人物像を解説します。
看護教員とは
看護教員は、未来の看護職を育てるという夢のある仕事です。看護師をはじめとする保健師・助産師等をめざして進学した学生に対して、看護の意味や役割、看護実践の具体的な方法、科学的に看護を思考する方法など、多岐にわたって教授し、知識・技術・態度を身につけた看護職に育てあげる仕事を行っています。
看護教員の役割
看護教員は、看護職を目指す学生たちに看護学の基礎を教えるだけでなく、実際の現場で必要となる実践的なスキルも指導します。特に臨床現場での経験を活かした指導が重要です。
看護教員のやりがい
看護教員としてのやりがいは、何よりも学生が看護師として成長していく姿を間近で見られることです。また、教育を通じて自らも学び続けることができる点も魅力です。
看護師を育てられる
自分が教えた学生が、看護師として現場で活躍する姿を見ることは、看護教員にとって大きな喜びです。
夜勤がなく、休日もしっかり取れる
看護師と異なり、夜勤がないため、規則的な生活を送りやすいのも看護教員の特徴です。
看護の知識を活かせる
これまでに培った看護の知識や技術を教育に活かすことができ、自分の経験が学生の成長に直接つながることがやりがいの一つです。
看護教員の今後
厚生労働省の「衛生行政報告」によると、看護師は約122万人おり、そのうち約1万7000人が看護教員です。全体のわずか1.4%ですが、看護師不足は社会問題になっており、今後も看護師を目指す人は毎年増加することが考えられます。それに伴って、看護学校への入学希望者も増加することが考えられ、看護教員の需要は今後も続くと予想されます。
看護教員と養護教諭とのちがい
養護教諭とは、「保健室の先生」のことです。看護教員とは異なり、以下のような業務を行います。
- 学校保健情報の管理
- 学校環境衛生の管理
- 救急処置
- 保健教育
- 健康相談活動
- 健康診断の立案・準備
- 伝染病予防対策・指導
- 保健室の運営
養護教諭の仕事は、児童生徒の健康管理や健康教育、心のケアなどが中心です。ケガや病気の児童生徒に手当てを行い、健やかな学校生活を送れるよう環境を整える役割を担っています。また、心の悩みを抱える児童生徒の相談相手となり、問題解決のためのアドバイスやフォローも重要な仕事です。
看護学校教員と臨床看護師の違い
看護学校教員と臨床看護師の違いは、役割や働く環境にあります。それぞれに求められるスキルや仕事内容は異なるため、自分に合ったキャリアを選ぶことが大切です。
- 役割の違い: 臨床看護師は患者さんのケアを直接行うのが主な役割であるのに対し、看護学校教員は学生に対して看護の知識や技術を教えることがメインです。教員は、授業や実習指導を通して、未来の看護師を育成することが仕事の中心です。
- スケジュールの違い: 臨床看護師はシフト制で働くことが多く、夜勤や休日出勤もありますが、看護学校教員は基本的に平日のみの勤務で、夜勤はありません。また、学校のカレンダーに合わせた休暇を取れる点も大きな違いです。
- 責任の違い: 臨床看護師は患者さんの命を預かる責任があります。一方、看護学校教員は、学生の成長や知識習得に対して責任を持ちます。どちらも大きな責任がありますが、対象が異なる点で役割が分かれています。
看護学校教員と臨床看護師のどちらも看護の分野で重要な役割を担っていますが、自分がどのようなキャリアを築きたいかによって選ぶべき道は変わります。
【参考記事】養護教諭になるには? | 保健室の先生のなり方、仕事内容、向いている人
看護教員の仕事内容
看護教員は、単に授業を行うだけでなく、多岐にわたる業務をこなしています。以下に、主な仕事内容を紹介します。
授業・演習とその準備
看護教員の基本的な役割は、学生に看護知識や技術を教えることです。授業や演習の準備として、カリキュラムに基づいた授業計画を立て、講義内容を考え、資料を作成します。また、テストの作成と採点、演習に必要な物品の準備も重要な業務の一部です。
看護基礎教育は、以下の8つの専門領域に分かれます。
- 基礎看護学
- 地域・在宅看護論
- 成人看護学
- 老年看護学
- 小児看護学
- 母性看護学
- 精神看護学
- 看護の統合と実践
学校によっては担当領域や業務の分担などに違いがありますが、看護教員は専門領域のどれか1つを責任を持って担当し、同じ専門領域に属する複数の看護教員と協力し合って、授業を行います。
初めて学ぶ学生から興味が得られるように、臨床での経験談の紹介や視聴覚教材を活用するなど、わかりやすく教えるためにさまざまな工夫をして授業の準備をします。校内実習では、モデル人形やシミュレーターなどを活用した授業の展開や、看護教員自身が実際にその技術を見せて、学生同士で交互に患者役・看護師役を体験して学ばせたりも行います。これらに対応できるように看護教員は、常に最新の医療情報の知識をもてるように、各種研修会や学会などに参加し、自己研鑽しています。
実習指導
看護学生が看護師になるためには、必修単位に含まれる実習を経験する必要があります。看護教員は学生と共に実習に同行し、現場での技術や患者ケアを学ぶ学生をサポートします。実習先では、学生を連れていくだけでなく、現場での指導も行います。
実習指導で気を付けるべきポイント
実習指導は、看護学校教員として非常に重要な役割です。学生に対して実践的な看護スキルを教えるだけでなく、患者さんに対するケアの質や安全を確保する必要があります。以下のポイントに気を付けることが大切です。
- 安全管理: 患者さんの安全を第一に考え、学生が適切な指導のもとで実習を行えるように注意を払います。特に、薬剤の取り扱いや医療機器の使用に関しては、細心の注意が必要です。
- コミュニケーション: 学生が理解しやすいように指導することが求められます。難しい概念や技術を分かりやすく説明することはもちろん、学生が質問しやすい環境を作ることも重要です。
- フィードバック: 実習後には、学生に対して具体的なフィードバックを行います。学生がどのように改善できるかを明確に伝え、次回に活かせるアドバイスを提供することが指導者としての役割です。
実習指導は、学生の成長に直結するため、細やかなケアとサポートが不可欠です。
看護師試験対策
看護師になるためには、必修科目を修了し、看護師試験に合格する必要があります。看護教員は、学生の試験対策として問題演習や補習を実施し、外部模試の受験を推奨することもあります。
学生への個別対応
授業や実習の中で悩みを抱える学生への対応も重要な仕事です。休学や退学を希望する学生に対して、看護師の先輩として助言を行い、面談や電話相談を実施することもあります。学生一人ひとりに寄り添い、サポートを行うことで、より良い教育環境を提供します。
看護教員の1日の流れ
看護教員の1日は、授業準備や授業、実習指導、学生対応など多岐にわたります。ここでは、具体的なスケジュールについて解説します。
授業準備から授業・実習指導まで
授業の準備は、講義資料の作成や実習計画の立案などを含みます。授業では、専門知識を学生にわかりやすく伝えることが求められます。
学生対応や事務作業の時間配分
学生の質問対応や進路相談、看護師国家試験対策の指導なども教員の重要な業務です。また、授業計画の調整や成績管理などの事務作業にも一定の時間を割く必要があります。
看護学校教員と看護大学教員の働き方の違い
看護学校教員は実習指導が多く、臨床現場での指導が重要視されます。一方、看護大学教員は研究活動や論文執筆の比重が大きく、より学術的な業務が求められます。
看護教員になるメリット
看護師が看護教員になることのメリットとして、教育ができること、夜勤がなく休日もしっかり取れること、看護の知識を活かせることなどが挙げられます。
教育ができる
看護教員の主な仕事は学生の教育です。教えることが好きな方にとって、この役割は大きな魅力となるでしょう。
夜勤がなく、休日もしっかり取れる
看護教員には夜勤がなく、シフト制のような不規則な勤務もありません。そのため、休日をしっかり取得でき、規則正しい生活を送ることができます。
看護の知識を活かせる
看護の知識を基に教育を行うため、実務が苦手でも知識を活かして働くことができます。看護師としての経験と知識が教育現場で役立ちます。
命に直結する責任が少ない
看護師としての現場では患者の命に関わる責任が重いですが、看護教員はそのような直接的な責任を負うことは少なく、精神的な負担が軽減されます。
看護教員になるデメリット
看護教員には多くのメリットがありますが、いくつかのデメリットや大変さも存在します。以下では、代表的な4つのデメリットについて解説します。
人間関係の悩み
看護教員も他の仕事同様、学生や教職員との人間関係に悩むことがあります。特に、思春期の学生の対応や、意見の合わない同僚との関係に苦労することがあります。こうした悩みは一人で抱え込まず、信頼できる先輩や同僚に相談することが重要です。
高い判断力が求められる
看護教員は、学生の健康や生命に関わる判断を迅速に行う必要があります。ケガや病気の処置、さらに対応が必要な場合の判断など、さまざまな場面で判断力が求められます。経験を積み、研修やワークショップに参加して判断力を養うことが大切です。
看護師としてのブランク
看護教員になると、医療現場から離れるため、看護師としてのブランクができる可能性があります。将来、病院に復職したいと考えている場合、ブランクがあることが不利になるかもしれません。しかし、教育現場での経験を活かし、再び看護師としてのスキルを高めることも可能です。
多岐にわたる業務
看護教員は、授業や演習だけでなく、学校行事での保健指導や健康相談、健康診断の準備など、多岐にわたる業務をこなす必要があります。これらの業務は多忙ですが、医療機関とは異なる経験を積むことができる点はメリットと言えるでしょう。
看護教員の仕事は大変?ストレスや負担とは
看護教員の仕事はやりがいがありますが、同時に大きな負担やストレスも伴います。ここでは、主なストレス要因について解説します。
授業・実習準備の負担
授業や実習の準備には多くの時間と労力が必要です。特に実習指導では、学生一人ひとりの習熟度を把握し、適切な指導を行う必要があります。
学生の看護師国家試験対策のプレッシャー
学生の国家試験合格率は、教員の評価にも影響を与えるため、大きなプレッシャーとなります。試験対策講座の実施や個別指導など、多くの時間を費やすことになります。
仕事を休みにくい場面とは
授業や実習指導があるため、急な休みを取りにくいことが多いです。特に国家試験前の時期は、学生指導が集中するため、長期休暇を取りにくい傾向があります。
看護学校の教員になるには?
看護学校の教員になるためには、一定の資格要件を満たし、教育に関する知識やスキルを身につける必要があります。ここでは、専任教員になるための要件や役職の種類について詳しく解説します。
専任教員になるための要件
看護学校で専任教員として働くためには、文部科学省または厚生労働省が定める条件を満たす必要があります。
看護師の実務経験5年+専任教員講習会の受講
最も一般的なルートは、看護師として5年以上の実務経験を積んだ後に、「専任教員講習会」を修了することです。専任教員講習会は、教育方法やカリキュラム編成、指導技術などを学ぶためのプログラムで、多くの自治体や教育機関で実施されています。
看護師の実務経験3年+大学または大学院での科目履修
もう一つのルートとして、看護師として3年以上の実務経験を持ち、かつ大学や大学院で教育に関する科目を履修する方法があります。特に大学院で教育学や看護教育に関する専攻を持つ場合、教員としてのキャリアを築く上で有利になることがあります。
教務主任とは?
教務主任は、看護学校のカリキュラム編成や教育方針の管理を担当する重要な役職です。授業計画の調整、教員の指導、学生の学習支援など幅広い業務を担います。看護教育の現場で経験を積み、管理能力を磨くことで、教務主任への昇進が可能になります。
実習指導教員とは?
実習指導教員は、看護学生の臨地実習をサポートし、適切な指導を行う役割を担います。病院や介護施設などの実習先で、学生が適切な看護技術を習得できるよう指導するため、高い指導力と臨床経験が求められます。り、大学または大学院にて教育科目を履修すれば、看護教員になる資格を得ることができます。大学や大学院、短大の看護教員は、採用条件として実務経験5年以上で修士号を持っていることを求められることが多いようです。
【参考記事】看護師資格を活かせる!病院以外で働く方法
看護教員に向いている人物像
看護教員の仕事は、単純に知識や経験を伝えることだけではありません。学生が、理解できる伝え方をし、授業・実習に向かう姿勢では手本となって、看護師国家試験に合格させることに向かって指導を行うことが求められています。
看護教員に求められるスキルと資質
厚生労働省「今後の看護教員のあり方に関する検討会報告書(2010年)」によると、看護教員の向上すべき資質と能力として、次のように記載があります。
〈向上すべき資質〉
- 対人関係における自己の表現力や相手に対する理解力・共感力
- 多様な個性を重視する人権意識や倫理観、看護に対する価値観
- 人として、看護職として学生などの目標となることができる人間性
〈求められるスキル・能力〉
- 教育実践能力
- コミュニケーション能力
- 看護実践能力
- マネジメント能力
- 研究能力
看護教員に向いている人の特徴
看護職を育てる看護教員は、日ごろから自身の専門領域はもちろん、他分野の看護や医療についても新しい情報をキャッチしながら勉強し続けることが必要です。どんなに臨床の看護実践能力が高くても、それを学生に対して、わかりやすく、興味を引く授業として展開できる力がないと教育効果があがりません。また、看護観や教育観は患者さんや学生への対応の中に知らず知らずのうちに現れるものです。学生と同じ目線で物事をとらえることができる看護教員は、学生から大変人気があります。
<看護教員の年収・給与体系
看護教員の給与は勤務先の種類や経験年数、役職によって異なります。ここでは、看護学校教員と看護大学教員の年収や、公立・私立の給与の違いについて解説します。
看護学校教員の平均年収
看護学校の教員の平均年収は約400万〜600万円程度とされています。経験年数や勤続年数に応じて昇給があり、役職に就くことでさらに収入を増やすことが可能です。
看護大学教員の給与体系
看護大学の教員は、講師・准教授・教授といった職階に分かれ、それぞれ給与が異なります。
- 講師:年収500万〜700万円
- 准教授:年収700万〜900万円
- 教授:年収900万〜1200万円以上
公立と私立の給与の違い
公立の看護学校や大学では、公務員給与体系が適用されるため、安定した給与が支給されます。一方、私立の学校では、学校の規模や財政状況によって給与に差が出ることがあります。
収入を増やすための方法(昇進・資格取得など)
看護教員として収入を増やすためには、昇進や資格取得が重要です。教務主任や学科長などの管理職に昇進することで、給与アップが期待できます。また、博士号の取得や専門的な資格を持つことで、より高い給与を得られる可能性があります。
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看護教員のキャリア
看護教員のキャリアは、おおよそ以下のような流れが代表的です。
新人教員(1年目~3年目)
最初の数年間は、新人教員として研修を受け、上長の指導のもとで実務を学びます。この期間は基礎的な教育スキルを身につける大切な時期です。
中堅教員(4年目~9年目)
経験を積む中で、講習や研修を通じてさらなるスキルアップを目指します。専門領域の講習会や臨床研修に参加し、担当科目の専門性を高めることが求められます。また、教育学会に参加して指導手法を学び、授業の質を向上させる努力も必要です。
ベテラン教員(10年目以降)
10年目以降は、教務主任や管理職としての道が開けます。カリキュラムの編成や教育内容・方法の管理に携わり、学校運営の円滑化を図る役割を担います。豊富な経験を活かし、学校全体の教育環境を整えることが求められます。
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看護教員を目指すなら、今がチャンス
看護師不足の現代において、未来の看護師を育成する看護教員の需要は高まっています。看護教育に興味がある方は、今がそのキャリアに踏み出す良い機会です。
看護教員は、看護師としての経験を活かしながら教育に携わるやりがいのある職業です。看護師としての経験を持ち、教育への情熱を持っている方にとって、看護教員の道は非常に魅力的です。
看護教員の仕事は決して楽な仕事ではありません。「夜勤がないから」という安易な理由で看護教員になった人は大変苦労します。日々勉強が必要ですが、大変な中には、学生が成長していく過程に立ち会え、卒業後の活躍している姿を見られるやりがいのある仕事です。未来の看護職を育成する夢のある仕事につくという選択肢もキャリアの1つとして考えて見ませんか。
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